
金融市場では、米国のインフレが高止まりする中で、連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を引き上げるペースや幅に注目が集まっています。しかし、一部のストラテジストは、現在の市場予想よりもはるかに高い金利水準が必要だと主張しています。彼らは、インフレを完全にコントロール下に置くには、政策金利を約8%まで引き上げなければならないというのです。
そんな極端な予測を立てているのは、マクロ・ハイブのシニア・マーケット・ストラテジスト、ドミニク・ドゥオフルコー氏です。同氏は、テイラー・ルールという金融政策の指針を用いて分析した結果、現在のインフレ率と失業率から推定される適正な政策金利は約8%だと言います。これは1970年以降のデータを基にした計算であり、現在のFRBの目標インフレ率や自然失業率とも整合しています。
ドゥオフルコー氏は、自分の予測が依然として少数派であることを認めますが、それでも自信を持っています。同氏は、今年3月にFRBが政策金利を0.25%から0.5%に引き上げた直後に8%金利予測を発表しました。その後も、雇用統計や消費者物価指数などの経済指標が強い内容を示すたびに、自分の見方が正しいことを確信したと言います。
「1月の非農業部門就業者数が予想よりも大幅に増加したことで、8%金利予測への自信を一層強めました」とドゥオフルコー氏は話します。「現在の政策金利水準は非常に低く、金融政策は過度に緩和的です。インフレ圧力が高まっていることを考えれば、もっと早くもっと大きく引き締める必要があります」と述べます。
ウォール街では同氏の意見は少数派ですが、同様の意見を持つ人物もいます。ラッカー前リッチモンド連銀総裁とプロッサー前フィラデルフィア連銀総裁は最近、ウォールストリート・ジャーナル紙に寄稿し「インフレを抑えるには、FRBは政策金利を8%まで引き上げるべきだ」と主張しました。彼らは、現在のインフレ率は構造的なものではなく、需要過剰によるものだと考えています。したがって、需要を抑制するためには、金融政策を大幅に引き締める必要があるというのです。
彼らの主張に対しては、反論も多くあります。一つは、インフレ率が高いのは、コロナ禍による供給不足やボトルネックが原因であり、一時的なものだという見方です。この場合、供給が回復すればインフレ率も下がると期待されるため、金融政策を急激に引き締める必要はないということになります。
もう一つは、インフレ率が高いのは、コロナ禍による需要の変化や期待形成の変化が原因であり、構造的なものだという見方です。この場合、インフレ率が高止まりする可能性があるため、金融政策を引き締める必要はあるかもしれませんが、8%まで引き上げる必要はないということになります。
どちらの見方が正しいかは、今後の経済データや市場動向によって判断されることでしょう。しかし、どちらにしても、金利8%という予測は極端すぎると言わざるを得ません。そもそも、テイラー・ルールという指針は、あくまで参考値であり、実際の金融政策決定には多くの要因が影響します。また、テイラー・ルール自体にも様々なバリエーションがあります。ドゥオフルコー氏が用いた計算式は一つの例に過ぎません。
金利8%という予測は、市場参加者や一般市民に不安や混乱を与える可能性があります。特に、住宅ローンやカードローンなどの借入金利が上昇することで、借金返済に苦しむ人々が増えることを危惧する声も聞かれます。しかし、現実的には、そんな高い金利水準になる可能性は極めて低いと考えられます。
しかし、市場予想も確実ではありません。経済状況やインフレ動向によって変化する可能性があります。また、FRB自身も政策金利だけでなく、量的緩和の縮小やバランスシートの縮小など、他の金融政策ツールも使っています。これらのツールも金融市場や経済に影響を与えるため、政策金利だけに注目するのは危険です。FRBは、これらのツールをどのように調整していくか、どのようにコミュニケーションしていくか、ということにも注意を払わなければなりません。
金利8%という予測は、現実離れしたものであり、無視すべきだというのが私の見解です。しかし、それでもインフレに対する懸念は無視できません。インフレが高止まりすると、購買力が低下し、生活水準が低下します。また、インフレが不安定になると、経済活動に不確実性が増し、投資や消費を抑制します。さらに、インフレが期待に反して上昇すると、FRBの信頼性や政策効果が損なわれます。
したがって、FRBはインフレを適切にコントロールすることが重要です。そのためには、インフレの原因や性質を正しく分析し、適切なタイミングとペースで金融政策を調整する必要があります。また、市場や一般市民に対しても、インフレ目標や政策方針を明確に伝える必要があります。
私は、FRBはこのような課題に対処できる能力と意思を持っていると信じています。しかし、それでも金融政策は万能ではありません。インフレに対処するためには、財政政策や構造改革など、他の政策分野との連携も必要です。また、個人や企業もインフレに備える必要があります。
金利8%という予測は極端すぎますが、インフレに無関心でいることも危険です。インフレは私たちの経済や生活に大きな影響を与える可能性があります。私たちはインフレに対して適切な理解と対応を持つことが求められています。

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