米経済は「ノーランディング」に向かっているのか?投資家が取るべき行動とは?

米国ではFRB(連邦準備制度理事会)が利上げを続けていますが、景気・企業業績・株式市場への影響はどうなっていくのでしょう?

一般的には、利上げはインフレを抑えるために行われますが、同時に経済成長を減速させる効果もあります。そのため、利上げが過度になると、景気後退(ハードランディング)に陥るリスクが高まります。逆に、利上げが適切なペースで行われれば、インフレと成長のバランスを取りながら、景気の軟着陸(ソフトランディング)が可能になります。

しかし、今年に入ってからの米国の経済指標を見ると、利上げにもかかわらず、雇用や消費が好調であり、自動車や住宅の需要も回復しつつあることが分かります。これは、経済成長が加速している(ノーランディング)ということを意味するのでしょうか?

エコノミストの中には、そう考える人もいます。例えば、ルネサンス・マクロのニール・ダッタ氏は、「今は『ノーランディング』シナリオに現実味がある」と述べています。また、ゴールドマン・サックスのエコノミストらは、景気後退入りする確率を25%とし、従来予想の35%から引き下げました。

しかし、「ノーランディング」が本当に起こるとしたら、それは良いことなのでしょうか?実は、そうではありません。なぜなら、「ノーランディング」はインフレ圧力を高めることになり、FRBがさらに利上げを強化する必要性を生むからです。その結果、経済成長が急ブレーキをかけられてしまう可能性があります。

実際、「ノーランディング」を疑問視するエコノミストも多くいます。例えば、バークレイズのマーク・ジャンノーニ氏は、「『ノーランディング』というのはソフトランディングかハードランディングが起きるのを待っている状態に過ぎない」と述べています。また、バンク・オブ・アメリカのイーサン・ハリス氏は、「この飛行機が高度3万フィート(約9144メートル)の上空で旋回する時間が長ければ長いほど、燃料切れのリスクは大きくなる」と話しています。

さらに、「ノーランディング」はまだ確定したことではありません。今後の経済環境や政策の動向によっては、景気の転換点が訪れる可能性もあります。そのため、米国の経済動向には引き続き注目が必要です。

CMEによれば、FRBが6月までに政策金利を5%超に引き上げる確率は90%で、年末まで5%超にとどまる確率は45%となっています。これは、インフレ圧力が高まっていることを反映しています。実際、1月のコアインフレ率は0.1~0.2ポイント加速したと予想されています。また、多くの企業が価格を値上げして売上高を伸ばしています。例えば、ユニリーバやペプシコは、販売数量が減少か横ばいでも、価格を11%や15%上げて増収となりました。

では、このような状況下で、個人消費はどうなるでしょうか?一般的には、金利が上がれば借り入れコストが高まり、消費者の支出意欲が低下すると考えられます。特に住宅ローン金利は6%強まで低下していますが、これが上昇すれば住宅市場にも影響が出る可能性があります。住宅建設業者も景気後退リスクを懸念しています。

しかし、一方で、個人消費は驚くほど安定しているという見方もあります。マスターカードやバンク・オブ・アメリカのデータによると、1月の小売売上高やカード支出は前年同月比で大幅に増加しました。これは、家計が流行時に積み上げた貯蓄を使っていることや、最低賃金の引き上げなどが寄与していると考えられます。また、インフレ率の低下が実質賃金を押し上げれば、消費者の購買力も向上するかもしれません。

さらに、世界の経済成長も持ち直しつつあります。欧州はエネルギーコスト急騰による景気後退を免れたようで、中国も規制の解除によりコモディティー需要を押し上げる可能性があります。これらの要因が米国の輸出や企業収益にプラスに働くことも期待できます。

以上のことから、金利上昇の影響で米国の個人消費が大きく減速するという見方は早計かもしれません。もちろん、FRBがソフトランディングを演出できるかどうかは不透明ですし、景気後退リスクは現実のものです。しかし、消費者の支出意欲や購買力は依然として高い水準にあると言えるでしょう。投資家にとっては非常に難しい局面となっており、キャッシュポジションを高めて、あらゆる事態に備えるのが現時点での正解だと思います。

参考記事:米経済、成長加速で「ノーランディング」も

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