
米国労働市場における実態は、最新の雇用統計に示されるよりも弱い可能性があり、今後も悪化する可能性があるという指摘がある。しかし、全般的に雇用状況が不振であるとは言いにくく、政策当局者は困難に直面している。4月7日に発表された米国労働省の雇用統計によると、非農業部門の雇用者数は前月比23万6000人増加したものの、市場予想の23万8000人増には届かず、前の6か月間の平均を下回った。小売業と建設業など、景気感応度の高いセクターに不振の兆しがある一方、レジャーや接客業などの業界では回復傾向が見られる。
通常の景気循環と「コロナ循環」の両方が進行していることが米国経済で示されており、金融引き締め政策によって一般的な景気循環が予想通り進んでいる。しかし、金利動向に敏感な業界や、人々の景気予想に左右されやすい業界などは下降傾向にある。一方で、コロナ禍で失った人材をまだ取り戻す余地がある業界もある。ただし、これらの追い風はいずれやむ可能性があり、既にやや弱まっているようだ。
他の業界で職を失った労働者が、そのうちレジャーや接客業で働くことができなくなる可能性があるため、景気感応度の高い業界が更に落ち込んで、他の業界にも波及するかどうかが重要になる。さらに、賃金水準の高い業界で失職する人が増えているが、こうした業界のホワイトカラー従業員は、正式解雇の数カ月前に通知されるため、まだ労働統計の指標には表れていない。
3月の銀行パニックが、シリコンバレー銀行が資金調達計画を発表した8日に始まったため、労働統計の数字に金融不安の影響が及ぶには数日しかなかった。このため、情報や金融などの業界では今後、落ち込みが鮮明になる可能性があるとの予想がある。
しかし、3月の失業率が3.5%と、労働市場が全体的に不調であるとは言いにくい状況であり、次回の雇用統計の発表が5月5日の金曜日で、その2日前に当たる5月3日まで開く連邦公開市場委員会(FOMC)で金利判断を下す必要があることもタイミングが悪い。
現在の背景を踏まえると、米金利先物市場では、5月のFOMCでの0.25ポイントの利上げを織り込む確率が依然として70%前後であることも予想されている。FRBは難しい判断を迫られる可能性がある。
まとめると、米国労働市場は最新の雇用統計よりも弱い可能性があると指摘されている。景気感応度の高い業界は更に落ち込む可能性があり、他の業界にも波及するかどうかが重要になる。労働統計に金融不安の影響が及んでいない点や、次回の雇用統計発表が金利判断を下すFOMCの直前にある点など、不透明な状況もある。FRBは難しい判断を迫られており、今後の経済状況に注目が必要である。
参考記事:米経済に「二つの循環」 FRBを窮地に
関連記事