
欧州中央銀行(ECB)は10日、ユーロ圏の銀行に対する年次監査報告書を発表した。報告書では、ユーロ圏の銀行は全般的に必要とされる以上の資本を有しており、ウクライナ戦争による打撃は金利上昇による増益で相殺されたと指摘した。ただこの状況は長続きしない可能性があると警告した。
ECB銀行監督委員会のエンリア委員長は「金利上昇は銀行の収益向上に寄与しているが、顧客の債務返済能力に影響を与える可能性もある」と述べた。また、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが終息した後も、経済や金融市場に不確実性が残ると指摘した。
ECBは「持続的なリスク管理の欠陥」が見つかったとし、特に未払いリスクのあるローンの分類方法の問題を指摘した。エンリア氏は多くの銀行の弱点としてガバナンス(企業統治)を挙げ、取締役会メンバーのIT経験と独立性が不十分と強調した。「健全なチャレンジ文化の欠如と意思決定手続きの脆弱さが、効果的なガバナンスと戦略的な運営をさらに妨げている」と述べた。
ECBは銀行に対する独自の資本要件(第2の柱ガイダンス)を前年から据え置き、リスク資産の1.1%に設定した。資本要件と拘束力のない資本「ガイダンス」を下回った銀行は1行のみで、前年の6行から減少した。エンリア氏は「銀行は資本水準を高めることで、将来的なショックに備えるべきだ」と述べた。
2023年7月6日追加記事
ユーロ圏ノンバンクの拡大と金融リスク
ユーロ圏では、銀行以外の金融機関が急速に拡大しています。これらの機関はノンバンク金融仲介機関(NBFI)と呼ばれ、影の銀行とも呼ばれます。投資ファンドや保険会社などが含まれます。
NBFIは銀行と違って規制が緩く、リスクの高い取引に関与することがあります。現在、ユーロ圏でNBFIが保有する資産は31兆ユーロ(約4000兆円)に達しており、監督対象の銀行部門の資産の80%に相当します。
欧州中央銀行(ECB)銀行監督委員会のアンドレア・エンリア委員長は、このような状況が金融システム全体のリスクを高めていると警告しています。特に、インフレ率が上昇し、金融政策が引き締められる可能性がある中で、NBFIのリスクが今後数カ月で高まると指摘しています。
エンリア委員長は、NBFIには以下のような問題点があると述べています。
- 負債が急増しており、資産に対するレバレッジが高まっている。
- 資産と負債の満期が合わないため、金利変動に弱い。
- 流動性が不足しており、資金繰りに困った場合に対応できない。
- 銀行と密接につながっており、銀行への影響を及ぼす可能性がある。
エンリア委員長は、これらの問題を解決するためには、新たな規制を導入することが必要だと主張しています。しかし、規制を作成し実施するまでには時間がかかるため、短期的には銀行側で対策を講じることが重要だと述べています。
具体的には、銀行は以下のようなことを行うべきだと提言しています。
- NBFIと取引する際にリスクを正しく評価し、過小評価しない。
- NBFIからの資金調達やレポ市場での取引を適切に管理し、流動性リスクを低減する。
- NBFIへの貸出や投資を適切に管理し、信用リスクや市場リスクを低減する。
- NBFIとの関係を透明化し、監督当局や投資家に情報を開示する。
エンリア委員長は、これらの対策を実施することで、銀行は自身の安全性を高めるとともに、金融システム全体の安定に貢献できると期待しています。
ユーロ圏のノンバンクは、金融システムに多様性やイノベーションをもたらす可能性があります。しかし、それには適切な規制とリスク管理が必要です。銀行とNBFIの間には相互依存関係があります。そのため、どちらか一方に問題が生じれば、もう一方にも影響が及びます。ユーロ圏の金融安定を守るためには、銀行とNBFIの両方に目を向けることが重要です。
参考記事:ECB、今年は銀行の不良債権に照準 景気減速受け 執筆: Reuters (investing.com)
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