
中央銀行は信用を守れるか?
超低金利時代の経済と競争
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世界の中央銀行は健全だと思いますか?まずこの疑問から始めたいと思います。
中央銀行の責務と信用
世界の中央銀行の責務といえば「物価の安定」「金融システムの安定」「雇用の最大化」が有名です。現在の世界の中央銀行は現在もこの原則とも言える3つの責務を守っていると言えるのか、再考してみたいと思います。
そもそも景気循環が起こることから考える必要があります。安定した経済が持続しているとすれば景気循環そのものが起こることに疑問を持ちませんか?好景気も不景気もなく安定的に経済が成長することが最も国民にとって不安のない社会ではないでしょうか。不安とは将来に対するものです。先がわからない、読めないから不安になります。
中央銀行の究極の役割はまさにここにあると思います。不安のない世の中は、政府、経済の信用に通じます。信用を維持し続けることが究極の中央銀行の役割です。
通貨の信用
中央銀行が信用を維持し続けることの大きな重要性がもう一つあります。通貨の信用です。通貨はご存知の通りただの紙です。その紙に印刷をして受け取るとお金という価値を持ちます。
お金は中央銀行が発行し、中央銀行が信用を与えるので日本では日本銀行券と言います。海外でも大きな違いはありません。
そのお金で経済は全て回っています。もし中央銀行が信用を失うと、お金の信用が失われ、急激な円安とインフレで経済は崩壊します。
政治の信用
民主主義においては、残念ながら政府への不安がなくなることはありません。全員が満足できる選挙結果というものがないので、自然なことです。間違えた指導者の元では間違えた政策も行われます。この点においては中央銀行が手出しできません。だからこそ中央銀行は独立性が担保されています。
中央銀行の役割の変化
ここからは中央銀行の役割の変化についてお話をしたいと思います。
低金利時代の到来
まずは世界の中央銀行の低金利政策についてです。2008年から2009年ごろを境に、世界は超低金利政策に舵を切りました。米国、日本のみならず世界各国で同様の現象が見られます。
超長期で見ても米国は1982年ごろを境に超長期での利下げトレンドがずっと続いています。とは言っても2%を切って1%台の超低金利が定着し始めたのはつい数年前からです。
一方で日本はバブル崩壊後から一気に2%を割り込んで現在まで超低金利が維持され続けてきました。
平時の金融政策
適切と言われる2%物価上昇に維持しようとする場合、通常金利も2%程度を維持します。これにより企業は借入利息以上に利益を出す必要があるため、一定の利益率を確保しようとします。これによって物価は安定して2%程度を維持するようになります。
本来可処分所得(給与)の話や税金についても含めてお話をしなくてはいけないですが、大きな流れとして捉えていきたいので、ここでは除きます。
この2%を維持する中で、成長と利益を持続できない企業も必然的に出てきます。こういった企業は少しづつゆっくりと淘汰されていきます。そして新しい起業がなされて成長していくことで、健全な成長が保たれます。この起業にはイノベーションや新しい産業から生まれてくるものもあります。
金融機関の融資は健全で将来性のある企業へと流れ、不健全な財務体質の企業からは必然的に離れます。このように金融機関も一定の不当たりはありながら、健全性を維持しつつ将来性のある企業へ融資するような循環が継続されます。
超低金利政策とバブルの形成
さて超低金利の中では何が起こるでしょうか?超低金利の中では全く異なる事態が進行します。
ここから書くことは一般的に起こることで過去の日本が該当しなかった理由は別の機会にご説明します。
消費者の行動としては家や車などローンを組んで物を購入することが低金利のおかげで容易になります。また預金金利が低いことで、預金への期待は薄まり、投資や消費にお金が回るようになります。
企業は金融機関から融資を受けて、事業の拡大や起業が拡大していきます。あまり業績の良くない企業も、低金利でお金を借りることができますから、利益率が低くても生き残れます。
そうなると消費、企業業績の拡大で必然的に企業の業績は底上げされます。大きな問題はこれが常態化することです。一定の期間超低金利期間が続くことで、本来不良債権化すべきものがそうならず、超低金利化では健全なものとして存在することができます。企業は本来融資を受けることができない金額以上に融資を受けることができます。消費者も本来組むことができないローンを超低金利下では組むことができるようになります。
これらを引き受けているのは金融機関です。金融機関はその時の経済状況に合わせて融資基準を変えますが、超低金下では融資基準は緩和され、通常の金利下では貸出しないような貸出先や、貸出金額まで貸し出すこととなります。
これが通常のバブルの形成です。この上に米国の場合はコロナ支援政策で過剰な支援を行なったことで、バブルが大きくなりすぎ、急激なインフレが発生しました。
インフレ抑制
超低金利の期間が長ければ長いほどバブルは大きくなります。今の米国はインフレ抑制のために利上げをしていると思われていますが、一方でバブルを小さくすることも目的です。利上げに「痛みが伴う」と表現されるのはこのためです。各銀行は融資基準を引き締め、ゾンビ起業は淘汰され、健全な企業も事業拡大を断念しリストラを行うことで、失業率は上昇します。消費者はローンを組むことができず消費も下降します。
中央銀行の役割の変化
ではなぜそれを知りつつ中央銀行は超低金利を採用するのでしょうか?これには経済のグローバリゼーションと中央銀行の独立性が関係してきます。
経済は今や企業対企業の競争より国対国の競争になってきています。国対国の競争なるということは為替が大きく影響します。また政府による企業支援にかかる費用も積み重なる現在、政府が発行する国債の金利も低く抑える必要があります。
話が戻りますが、なぜ各国の中央銀行が2008-2009年頃から低金利に向かい始めたのか。これは私個人の見解ですが、グローバリゼーションによる国家間競争によるものと考えています。2000年代後半は中国のGDPが急激に成長する一方で、米国はリーマンショックでダメージを受け、両国のGDPの差が大きく縮まった時期でもあります。当然これは中央銀行の責務とは別のものであり、政治との関係が、つまり中央銀行の独立性が崩れた瞬間だと思います。
中国等の民主国家以外の国では当たり前のように政治と中央銀行の連携は行われており、金利や為替すらも政治主導です。グローバリゼーションにはこれらの国との競争も含まれます。「為替操作国家」と戦うためには、民主国家もある一定の対抗策をとらざるを得なかったことは、致し方ない状況であったことは理解できます。
このように現在の中央銀行の役割は変化しており、自国の経済成長を守る、促すことが含まれるようになっていると、私は考えています。
超低金利における政府と中央銀行は密接に繋がっており、グローバリゼーションにおける経済競争でいかに優位に成長を遂げるのか、綿密な会話がなされていると私は信じている一方で、その弊害として容易にバブルが形成されやすい状況に変化したと言えるでしょう。自らバブルを形成しその後崩壊させるのが今の中央銀行です。
この状況が行き過ぎると、通貨の信用に疑義が生じ始めます。国際競争力を維持するために政府は国債を大量に発行し、経済・企業支援を行います。その国債を直接中央銀行が買わないまでも(日本ではすでに大量に購入していますが)、国債購入主体の金融機関を強力に支援し始めることとなります。通貨発行主体の中央銀行が、国債購入を裏から支援するという事は、すでに通貨信用の棄損に片足を突っ込んでいる状態です。
為替の世界では通貨の評価は相対的なものです。その中でも、どの国の通貨が最も信用出来て金利が高いのかで評価されます。米国は高インフレの抑制のために最も早スピードで政策金利を上げ、M2マネーフローも抑制し、QTを開始。バランスシートの抑制に取り組んでいます。そういった意味で、全力で米国の信用(経済・通貨・金融システム)に取り組んでいる国であり、ドル高は当然のことといえます。日本とは対照的ですね。
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