利上げは必要不可欠とパウエル議長、FRBのタカ派姿勢に市場は動揺

Jerome Powell chairman of the US Federal Reserve Photographer Valerie PleschBloomberg

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は3月7日、上院銀行委員会で行った証言で、インフレが後退していることを示す「明確で納得できる」証拠が得られるまで当局は利上げを続けるとして、これまでで最もタカ派的な姿勢を表明した。パウエル議長は利上げ継続の理由として、インフレ期待の安定化や労働市場の過熱防止などを挙げた。また、金利を従来の想定以上に引き上げる必要がある公算が大きく、入手される情報「全体」がインフレ抑制に向け一段の厳しい措置が必要であることを示唆すれば、より大幅な措置を講じる用意があるとも述べた。パウエル議長の発言は市場や経済に大きな影響を与える可能性があり、特に日本やアジアなど他地域への波及効果に注意が必要だ。

この記事では、パウエル議長が利上げ継続を強調した理由やFRBの利上げペースやターミナルレート(政策金利の最終到達点)の見通し、パウエル議長の発言が市場や経済に与える影響などについて詳しく解説していきます。

パウエル議長インタビュー(抜粋)Source: Bloomberg

パウエル議長が利上げ継続を強調した理由

パウエル議長は、利上げ継続の理由として、主に以下の3点を挙げた。

  • インフレ期待の安定化
  • 労働市場の過熱防止
  • 金融当局の責務と信頼

インフレ期待の安定化

パウエル議長は、インフレが目標を大きく上回る期間が長引けばそれだけ、国民が経済的な意思決定にインフレ高進を自然と組み入れ始めるという懸念は大きくなると指摘した。これはインフレ期待と呼ばれるもので、インフレ率が高いと予想されれば、消費者や企業は価格や賃金を上げることでインフレに対応しようとする。これが自己実現的なプロセスとなり、インフレをさらに加速させる恐れがある。パウエル議長は「インフレ期待を抑制し続けるのは非常に重要だ」と強調し、そうした状態の継続を確実にするという点で「時間は刻々となくなりつつある」と述べた。パウエル議長は、インフレ期待を安定化させるためには、金利を引き上げて経済活動を冷やす必要があると考えている。

労働市場の過熱防止

上段雇用者数の増減前月比下段失業率と平均時給の推移前年同月比<br>出所米労働統計局

パウエル議長は、労働市場において需要は依然極めて強く、雇用者数は高い水準での伸びがなお続いており、賃金は高止まりしていると指摘した。これは労働市場が過熱していることを示しており、インフレ圧力を高める要因となっている。パウエル議長は「われわれは政策介入により、経済成長が潜在成長率を下回る期間を得たいと考えている。それにより、労働市場はより良いバランスを取り戻し、賃金は2%のインフレ目標とより整合した水準へと下がっていく」と説明した。パウエル議長は、労働市場の過熱を防ぐためには、金利を引き上げて雇用や消費の伸びを抑える必要があると考えている。

金融当局の責務と信頼

パウエル議長は、「金融当局には物価安定という責務があり、それを引き受けている」と説明した。歴史は時期尚早な政策緩和を戒めており、8月26日にジャクソン・ホール会合で述べた警告を繰り返した。パウエル議長は「われわれはこれまでと同様、直ちに、真っすぐに、力強く行動する必要がある」と指摘した。「同僚と私は、このプロジェクトに強くコミットしており、根気強く続けていく」と述べた。パウエル議長は、金融当局としての責務と信頼を守るためには、インフレに対して迅速かつ断固とした対応をする必要があると考えている。

FRBの利上げペースやターミナルレートの見通し

パウエル議長のタカ派的な発言を受けて、市場ではFRBが利上げペースを加速するとの見方が強まっている。特に3月の連邦公開市場委員会(FOMC)で50bpの利上げを決定する可能性が高まっている。また、ターミナルレートも予想より高くなるとの観測が出ている。しかし、パウエル議長はデータ次第の姿勢を維持しており、最終的な決定は今後発表される経済指標に左右されると考えられる。

3月FOMCで50bp利上げの可能性

パウエル議長は、入手される情報「全体」がインフレ抑制に向け一段の厳しい措置が必要であることを示唆すれば、より大幅な措置を講じる用意があると表明した。これは3月FOMCで50bpの利上げを選択肢に入れるという意味だと解釈された。金利先物市場では、3月FOMCで50bp利上げが約80%の確率で織り込まれている。しかし、パウエル議長は50bp利上げを明確に約束したわけではなく、データ次第の姿勢を示している。そのため、今後発表される雇用統計や消費者物価指数(CPI)などの経済指標が、50bp利上げの必要性を裏付けるかどうかが重要になるだろう。

ターミナルレートは6%に達するか

パウエル議長は、ターミナルレートが予想より高くなる可能性が高いと改めて指摘した。ターミナルレートとは、政策金利の最終到達点のことで、FRBが経済やインフレに対して中立的な姿勢を取るときに設定する金利水準のことだ。パウエル議長は、ターミナルレートは現在4.5%から5%程度だと考えているが、これはFRBメンバーの中央値よりも高い水準だ。また、市場関係者やアナリストの中には、ターミナルレートは6%に達すると予想する声も出ている。しかし、パウエル議長はターミナルレートについてもデータ次第で変わりうると述べており、最終的な決定は今後発表される経済指標に左右されると考えられる。

データ次第の姿勢を維持

パウエル議長は、利上げペースやターミナルレートについてもデータ次第の姿勢を維持しており、最終的な決定は今後発表される経済指標に左右されると考えられる。特に注目される経済指標は以下の通りだ。

  • 雇用統計:労働市場の状況や賃金動向を反映する重要な指標。2月の雇用統計は3月10日に発表される。
  • 消費者物価指数(CPI):インフレの状況やインフレ期待を反映する重要な指標。2月のCPIは3月13日に発表される。
  • その他の指標:消費者信頼感指数、小売売上高、生産者物価指数(PPI)などもFRBの政策判断に影響を与える可能性がある。

パウエル議長の発言が市場や経済に与える影響

パウエル議長のタカ派的な発言は市場や経済に大きな影響を与える可能性がある。特に債券市場や株式市場の反応やドル高や金利上昇の影響、日本やアジアなど他地域への波及効果に注意が必要だ。

債券市場や株式市場の反応

パウエル議長の発言を受けて、債券市場では金利が急上昇した。特に長期金利の上昇が顕著で、10年物国債利回りは3.5%を超える水準まで上昇した。これは、FRBが利上げペースを加速するとの見方が強まったことや、インフレ期待が高まったことを反映していると考えられる。金利の上昇は債券価格の下落を意味するため、債券投資家にとっては不利な状況だ。

株式市場では、パウエル議長の発言に対して様々な反応が見られた。一方で、FRBがインフレに対して迅速かつ断固とした対応をすることで、経済の安定性や成長性を高めるとの見方があった。これは、景気敏感株や金融株などにとっては追い風となると考えられる。他方で、FRBが利上げを過度に行うことで、経済活動や企業収益に悪影響を与えるとの見方もあった。これは、成長株やテクノロジー株などにとっては逆風となると考えられる。

ドル高や金利上昇の影響

パウエル議長の発言を受けて、ドルは他通貨に対して大幅に上昇した。これは、FRBが利上げペースを加速することで、米国の金利水準が他国よりも高くなることを見込んだことや、ドル資産への投資需要が高まったことを反映していると考えられる。ドル高は米国の輸出競争力を低下させる一方で、輸入品の価格を抑える効果がある。また、ドル建ての原油価格や商品価格も下落する傾向にある。これらはインフレ圧力を緩和する要因となりうる。

金利上昇は米国の借り入れコストを高める一方で、貯蓄や投資の収益性を高める効果がある。また、金利上昇は不動産市場や株式市場などにも影響を与える可能性がある。不動産市場では、住宅ローン金利の上昇により住宅需要が減退する恐れがある。株式市場では、金利上昇により割引率が高まり、将来のキャッシュフローの現在価値が低下することで、株価評価が下がる恐れがある。

日本やアジアなど他地域への波及効果

パウエル議長の発言は日本やアジアなど他地域にも波及する可能性がある。特にドル高や金利上昇は、これらの地域にとっては逆風となりうる。ドル高は日本やアジアの輸出競争力を低下させる一方で、輸入品の価格を高める効果がある。また、ドル建ての原油価格や商品価格も上昇する傾向にある。これらはインフレ圧力を高める要因となりうる。金利上昇は日本やアジアの借り入れコストを高める一方で、貯蓄や投資の収益性を低下させる効果がある。また、金利上昇は不動産市場や株式市場などにも影響を与える可能性がある。不動産市場では、住宅ローン金利の上昇により住宅需要が減退する恐れがある。株式市場では、金利上昇により割引率が高まり、将来のキャッシュフローの現在価値が低下することで、株価評価が下がる恐れがある。

まとめ

この記事では、パウエル議長が利上げ継続を強調した理由やFRBの利上げペースやターミナルレートの見通し、パウエル議長の発言が市場や経済に与える影響などについて詳しく解説しました。パウエル議長はインフレ期待の安定化や労働市場の過熱防止などを利上げ継続の理由として挙げ、金利を従来の想定以上に引き上げる必要がある公算が大きく、入手される情報「全体」がインフレ抑制に向け一段の厳しい措置が必要であることを示唆すれば、より大幅な措置を講じる用意があるとも述べました。パウエル議長の発言は市場や経済に大きな影響を与える可能性があり、特に債券市場や株式市場の反応やドル高や金利上昇の影響、日本やアジアなど他地域への波及効果に注意が必要です。しかし、パウエル議長はデータ次第の姿勢を維持しており、最終的な決定は今後発表される経済指標に左右されると考えられます。そのため、今後もFRBの政策動向や経済指標の動向に注目する必要があります。

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