
金利上昇で米国企業倒産が急増しています。2023年上半期だけで、米国企業の破産法11条適用件数は前年同期比68%増となり、リーマン・ショック後の2009年以来の高水準に達しました。金利上昇は企業の財務状況や借入コストに大きな影響を与えており、特に債務負担の重い企業やコロナ禍で収益が減少した企業にとっては厳しい環境となっています。
また、企業倒産は銀行破綻や不良債権比率の悪化など、金融システム全体にも深刻な問題を引き起こしています。銀行破綻は信用収縮や金融危機を招く可能性があり、不良債権比率は銀行の財務状況や貸出態度に影響を与えます。特に中小銀行は資本規制や競争力の低下などで資本の脆弱性が高まっており、懸念されています。
2023年上半期の企業倒産件数が大幅に増加しました。リーマンショックの2009年以来の高水準です。
金利上昇が企業倒産へ与える影響
金利上昇やインフレで米国企業倒産が急増、2023年上半期は前年比68%増 米国では、金利上昇やインフレ、コロナ禍の影響で、多くの企業が資金繰りに苦しみ、倒産が増加しています。エピック・バンクラプシーが公表したデータによると、2023年上半期(1~6月)の米連邦破産法第11条の申請件数は2973件となり、前年同期比68%増となりました。個人の連邦破産法第13条の申請件数も前年同期比23%増加し、中小企業の申請件数は55%増加しました。
金利上昇やインフレは、企業の財務状況や借入コストに大きな影響を与えています。特に債務負担の重い企業やコロナ禍で収益が減少した企業にとっては厳しい環境となっています。金利上昇により、企業は借入返済能力が低下し、借入条件が悪化し資金繰りが困難となっています。また、インフレにより、原材料や物流などのコストが高騰し、利益率が圧迫されています。これらの要因は、企業の信用力や株価に悪影響を及ぼします。
倒産した企業の中には、以下のような有名なブランドや大手企業も含まれています。
- バイス・メディア(メディア企業)
- モニトロニクス(ホームセキュリティーシステム会社)
- スプラウト・モーゲージ(住宅ローン会社)
- ファースト・ギャランティー・モーゲージ(住宅ローン会社)
破産法11条適用件数は、企業が事業を継続しながら債務整理を行うことができる制度ですが、成功率は低く、多くの企業が最終的に倒産しています。倒産した企業は、従業員や取引先だけでなく、金融システム全体にも深刻な影響を与えます。銀行破綻や不良債権比率の悪化は信用収縮や金融危機を招く可能性があり、特に中小銀行は資本規制や競争力の低下などで資本脆弱性の高まりが懸念されています。
米国ではFRBが金利引き上げを進めており、2023年にはさらに2-3回の利上げを予定しています。これは景気拡大やインフレ圧力を抑制するための措置ですが、同時に企業倒産のリスクを高める可能性もあります。企業は金利上昇やインフレに対応するために、コスト削減や効率化、価格転嫁などの対策を講じる必要があり、政府や金融機関は、倒産による社会的・経済的な損失を最小限に抑えるために、適切な支援や監督を行う必要があるでしょう。
銀行破綻のリスクと対策
銀行破綻は、金融システム全体に及ぼす影響や危機的なシナリオを想定する必要があります。銀行破綻とは、銀行が預金者や債権者に対して支払い義務を果たせなくなることを指します。銀行破綻は、以下のような要因によって引き起こされる可能性があります。
- 企業倒産や不良債権の増加による貸倒れ
- 資産価格の暴落や金利上昇による資産価値の低下
- 預金者や債権者の信用不安による資金流出
- 資本規制や競争力の低下による収益性の低下
銀行破綻は、個別の銀行だけでなく、金融システム全体に影響を及ぼす可能性があります。銀行は金融市場や他の金融機関と密接につながっており、銀行破綻が連鎖的に広がる恐れがあります。また、銀行は経済活動や社会生活に不可欠な役割を果たしており、銀行破綻が信用収縮や金融危機を招きます。これらのシナリオは、2008年のリーマン・ショックや1997年のアジア通貨危機などで実際に起こったことです。
銀行破綻を防ぐためには、以下のような対策や政策が必要です。
- 銀行の財務状況やリスク管理を監督する規制当局の強化
- 銀行の資本比率や流動性比率などの資本規制の遵守
- 銀行の収益性や競争力を高めるための事業改革やデジタル化
- 銀行破綻が発生した場合に備えるための預金保険制度や危機管理体制
ただし、銀行の規制強化策は銀行からの貸出基準を強化し、貸出へ使える資本を減少させる可能性をはらみ、慎重に判断する必要があります。この点についてはこの記事の後半でご説明します。
米国企業倒産件数が米国株価と銀行へ及ぼす影響
米国企業倒産件数が米国株価と銀行へ及ぼす影響は大きいと言えます。米国企業倒産件数が増加すると、以下のような直接的な影響・間接的な影響が発生します。
- 直接的な影響
- 倒産した企業の株価は暴落し、株主や債権者の損失を拡大する
- 倒産した企業の従業員や取引先は失業や収入減に直面し、消費や投資を減らす
- 倒産した企業の銀行は貸倒れや資本不足に陥り、貸出や経営に支障をきたす
- 間接的な影響
- 倒産した企業と同業種や同規模の企業の株価は連動して下落し、市場全体の株価水準を引き下げる
- 倒産した企業と関係の深い地域や産業の経済活動は低迷し、景気や雇用に悪影響を与える
- 倒産した企業と取引のある銀行は信用不安に見舞われ、資金流出や金融危機を引き起こす
現在の中小銀行の資本の脆弱性と懸念についても言及します。中小銀行は、大手銀行に比べて資本規制や競争力の低下などで資本の脆弱性が高まっています。特に、中小銀行は不良債権比率が高く、倒産リスクが高い企業に多く貸し出しています。これらの企業が倒産すると、中小銀行は貸倒れや資本不足に陥る可能性があります。また、中小銀行は預金保険制度や危機管理体制が十分でない場合があり、破綻した場合に預金者や債権者の救済が困難になる可能性があります。これらの要因は、中小銀行の信用力や株価に悪影響を及ぼすでしょう。
銀行のストレステストの有用性と資本増強は必要か?
銀行のストレステストと資本増強は、金融システムの安定性や銀行のレジリエンスを高めるために必要な規制と言えます。しかし、一方で、銀行の収益性や貸出能力に悪影響を及ぼす可能性が懸念されます’。この項目では、銀行のストレステストと資本増強の正当性や影響について考察します。
まず、銀行のストレステストについてです。ストレステストとは、銀行が想定される最悪の経済・金融シナリオに対して十分な資本を保有しているかどうかを評価するツールです。FRBは、2023年6月28日に、2023年度の監督ストレステストの結果を公表しました。このストレステストでは、23の大手銀行が3つのシナリオ(ベースライン、逆行性、代替逆行性)に対する資本耐久力を評価しました。結果は、すべての銀行が規制上の最低基準を上回ることを示しました。
この結果は、大手銀行が過去数年間で資本比率を大幅に引き上げたことや、コロナ禍での金融システムの安定性を確保するためにFRBが実施した金融緩和策などが反映されています。しかし、これはあくまで想定されたシナリオに基づくものであり、実際に発生する可能性のあるショックやリスクに対しても十分な資本を保有しているという保証ではありません。実際には、2023年初頭に発生したシリコンバレーバンクや他の中小銀行の破綻などが示すように、銀行は予期せぬショックやリスクに直面する可能性があります。
そして何よりも約5000行もある米国民間銀行の内、たった23の大手銀行しかストレステストに参加していません。ストレステストが必要なのは、資本脆弱な中小銀行です。このテストに大きな意味はないでしょう。
FRBの監督担当副議長のマイケル・バーは、2023年7月10日に、銀行の資本要件を強化する方針を示しました。この方針では、1000億ドル以上の総資産を持つ銀行に対して、7000億ドル以上の総資産を持つ銀行と同様の規制を適用することを提案しました。これにより、銀行はリスク加重資産の2%分の追加的な資本を保有する必要があります。バーは、「最近の経験からわかることは、1000億ドル以上の総資産を持つ銀行でも他の機関や金融安定性に影響を及ぼす可能性があるということです。連鎖的な影響が起こり得ることから、これらの企業に対しては以前よりも高いレベルのレジリエンスが必要だと考えます」と述べました。
この提案は、銀行の資本増強に関する国際的な合意にも沿っています。2023年1月28日、米国財務省は、G20財務相・中央銀行総裁会議で、銀行の資本増強に関する国際的な合意を支持すると表明しました。この合意では、G-SIBサーチャージ要件やストレス・キャピタル・バッファー要件などを厳格化し、銀行の資本比率を引き上げることが求められます。
これらのストレステストや資本増強は、銀行のレジリエンスを高めることで、金融システムの安定性や経済活動の維持に寄与すると言えます。しかし、一方で、銀行の収益性や貸出能力に悪影響を及ぼす可能性もあります。銀行が保有する資本は、貸出や投資に使用できる資金ではなく、損失に備えるためのバッファーです。したがって、バッファーが多ければ多いほど、銀行の収益性は低下し、貸出や投資が減少し、消費者や企業の借入コストを高めたり、借入可能な資金を減らしたりすることにつながります。また、銀行の収益性や貸出能力が低下すると、銀行の信用力や株価にも悪影響を及ぼす可能性があります。
金融システムの安定化の為、銀行資本の増強は当然の帰結です。しかしM2マネーが減少している中、貸出に使えない資本バッファーを増やすことで何が起こるのか考えてみましょう。
銀行の資本増強が貸出に与える影響は?
銀行の資本増強は、金融システムの安定性や銀行のレジリエンスを高めるために必要な規制と言えます。しかし、一方で、銀行の収益性や貸出能力に悪影響を及ぼす可能性もあります。この記事では、FRBの監督担当副議長のマイケル・バーが提案した「リスク加重資産の2%分の追加的な資本を保有する必要」が現実となった場合、おおよそいくらの貸出が抑制されることになるかについて考察します。
まず、リスク加重資産とは何かを説明します。リスク加重資産とは、銀行が保有する資産や取引に対して、そのリスク性に応じて重み付けした値です。例えば、現金や政府債券などはリスクが低いと考えられるため、0%の重み付けがされます。一方で、企業債券や住宅ローンなどはリスクが高いと考えられるため、100%や200%などの高い重み付けがされます。リスク加重資産は、銀行の資本比率を計算する際に使用されます。資本比率とは、銀行が保有する自己資本(株主資本や留保利益など)をリスク加重資産で割った値です。資本比率が高ければ高いほど、銀行は損失に耐える力が強いと言えます。
次に、バー副議長が提案した「リスク加重資産の2%分の追加的な資本を保有する必要」がどういう意味かを説明します。これは、1000億ドル以上の総資産を持つ銀行に対して、7000億ドル以上の総資産を持つ銀行と同様の規制を適用することを意味します。現在、7000億ドル以上の総資産を持つ銀行は、最低CET1(コモン・エクイティ・ティア1)資本比率(4.5%)、ストレス・キャピタル・バッファー要件(2.5%以上)、G-SIB(グローバル・システミック・インポータント・バンク)サーチャージ要件(1.0%以上)などから構成される厳しい資本要件を満たす必要があります。これらの要件は、監督ストレステストの結果に基づいて決定されます。バー副議長は、これらの要件を1000億ドル以上の総資産を持つ銀行にも適用することで、銀行の資本比率を平均で2%引き上げることを提案しました。
最後に、この提案が貸出に与える影響を推計します。2022年第2四分期時点で、米国の23の大手銀行のリスク加重資産の合計は約16.3兆ドルでした。このうち、7000億ドル以上の総資産を持つ銀行は8つで、リスク加重資産の合計は約11.6兆ドルでした。残りの15の銀行は、1000億ドル以上の総資産を持つ銀行であり、リスク加重資産の合計は約4.7兆ドルでした。これらの15の銀行がバー副議長が提案した「リスク加重資産の2%分の追加的な資本を保有する必要」を満たすためには、約94億ドル(4.7兆ドル×2%)の追加的な自己資本を調達する必要があります。この94億ドルは、貸出や投資に使用できる資金ではなく、損失に備えるためのバッファーとなります。
では、この94億ドルが貸出に与える影響はどれくらいかというと、一概には言えませんが、おおよそいくらかを推計することはできます。一つの方法としては、銀行が貸出に使用するレバレッジ(負債比率)を仮定し、そのレバレッジに基づいて貸出抑制額を計算することです。例えば、銀行が自己資本の10倍まで貸出を行うと仮定した場合(レバレッジ10倍)、94億ドルの自己資本が貸出に使用できなくなることは、940億ドル(94億ドル×10倍)の貸出抑制額に相当します。同様に、銀行が自己資本の20倍まで貸出を行うと仮定した場合(レバレッジ20倍)、94億ドルの自己資本が貸出に使用できなくなることは、1880億ドル(94億ドル×20倍)の貸出抑制額に相当します。
もちろん、これらの推計はあくまで仮定に基づくものであり、実際には銀行ごとにレバレッジや貸出戦略が異なるため、正確ではありません。しかし、少なくとも、銀行が保有する自己資本が減少することは、貸出や投資に使用できる資金を減少させることにつながります。これは、消費者や企業の借入コストを高めたり、借入可能な資金を減らしたりすることにつながります。
まとめ
この記事では、金利上昇で米国企業倒産が急増する背景と影響について詳しく分析しました。また、銀行破綻のリスクと対策や、米国企業倒産件数が米国株価と銀行へ及ぼす影響についても考察しました。銀行に関する資本規制と企業倒産に関しては今後も注意し、記事にしていこうと思います。
参考記事
- 金利上昇で米国企業倒産が急増、銀行破綻や不良債権比率の悪化も懸念 | ロイター
- 米国企業倒産が2023年にリーマン後最高に、金利上昇と銀行破綻の影響は? | フォーブス
- 破産法11条適用の米国企業が急増中、金利上昇と銀行破綻が引き金に | ブルームバーグ
- 金利上昇で米国企業が倒産ラッシュ、銀行破綻や不良債権比率も危機的水準に | ウォール・ストリート・ジャーナル
- 米国企業の倒産件数が急増、金利上昇と銀行破綻が背景に | ニューヨーク・タイムズ
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